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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)104号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがなく、本件発明の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、被告の明らかに争わないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 成立に争いのない甲第六号証の一(明細書)、同号証の二(昭和五一年七月二日付手続補正書)、同号証の三(昭和五一年一一月二九日付手続補正書)及び同号証の四(出願公告後の補正書)を総合すると、本件発明は、継ぎ目なしのリングを自動的に順次連鎖するようにする方法および自動的に連鎖させるための装置に係るものであつて、従来、リングを連鎖状に組み付ける際、リングの一部にあらかじめ開放部を形成し、この開放部を介して一方のリングに連結した後、開放部を閉塞して一つの無端状リングとしているが、外観上継ぎ目があるため体裁良好とはいい難く、また、開放部を閉塞するための手間と工具とを要し、なお、鋳造に際し金型を上下・左右の方向にわたり開閉させていたためそれだけ作業工程数が多くなる等の欠点があつたところから、前示特許請求の範囲に記載されたとおりのリング自動連鎖方法及び装置を提供することによつて右の欠点を除去することを目的としたものであることが認められるところ、本件発明の明細書及び図面には、リング自動連鎖方法及びその装置における比較的重要な構成部分と認められる点が明瞭に説明若しくは図示されていないから、本件発明の明細書の発明の詳細な説明の記載はその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成及び効果を記載しているものと認められず、法第三六条第三項所定の要件を欠くものであり、また、特許請求の範囲の記載も同条第四項所定の要件を満たしてはいないものといわざるを得ず、原告の主張は理由がないものというべきである。すなわち、

1 原告の主張四1中本件審決指摘の<4>の点について

本件審決指摘の「単にリング係止用切欠部(9V)、(9´V)を形成しただけではリング(R)は係合できないし、また、仮に係合できたとしてもリング前下型が左右に摺動した場合にリング(R)はその係合からはずれない」との部分について、原告は、明細書第五頁第七行ないし第一〇行の記載と第3図とを引用し、リング係止用切欠部(9V)、(9´V)の後方に隙間を設け、水平におかれたリング(R)を係合させ得る構成となつている旨主張し、リングを係合からはずす点については、出願公告後の補正書第四頁第二〇行ないし第五頁第一四行及び第三頁第一九行ないし第四頁第一六行の記載を引用して、挟持体(H)の上昇によつて水平状リング(R)はリング前下型(9)、(9´)の係合からはずれることは明瞭であると主張する。しかしながら、リング係止用切欠部(9V)、(9´V)の後方にあるといわれる「隙間」については、その点の記載が明細書の不備といえるか否かはともかく、リング(R)を係合からはずすための構成については、明細書の発明の詳細な説明の項において、全く明らかにされていない。すなわち、前掲甲第六号証の四によれば、発明の詳細な説明の項中原告の引用する記載部分も、最初の一個目のリングの鋳造の開始から二個目のリングの鋳造準備の態勢が整うまでを説明し、その後は、「前述のような所作を反復して多数の継ぎ目なしのリング」を自動的に連鎖状態とするとしているのみであつて、二個目のリングの鋳造工程との関連において、どの部材がいつどのようにして最初に鋳造された水平状のリング(R)をリング前下型(9)、(9´)からはずすかについては全く明示していないことが認められるから、この点からして既に本件発明の明細書は、法第三六条第三項に規定する要件を満たしていないといわざるを得ない。

2 同四1中本件審決指摘の<5>の点について

本件審決指摘の「第7図においてリング(R´)はリング前下型が閉塞しているのならば、リング(R´)の下の1/4はリング前下型で見えないものと認められる。また溝(h)とリング(R´)とは離れた状態にならない。」との部分について、原告は、第7図は、直立状のリング(R´)の1/2を溝(h)からはずして、リング(R´)がリング係止用切欠部(9V)、(9´V)に係合して水平状のリング(R)への直交・連鎖する状態を図示したもので、本件発明をより明瞭にしたものであるから、本件審決のこの点の指摘は誤りである旨主張する。しかしながら、前掲甲第六号証の一によれば、明細書添付の図面のうち、第7図においては、リング前下型(9)、(9´)が閉塞しているから、リング(R´)の下の1/4は円弧状の凹溝(h)に入つてしまつて見えない状態にあるはずであるにもかかわらず、見える状態に図示されており、また、リング(R´)は円弧状の凹溝(h)から離れて右側に位置する状態にあるはずがないにもかかわらず、そのように図示されていることが認められ、本件審決も、これらの図示されたところの誤りを指摘したものであり、当然の指摘というべきである。前掲甲第六号証の一ないし四によれば、明細書には、第7図の説明として、原告の主張するような趣旨を示すための図面であることについては何らの記載もないことが認められ、そうである以上、第7図については、本件審決が指摘するような疑問を生じ、不明瞭な記載とされることは極めて当然のことであり、この点に関する原告の主張は、採用することができない。

3 同四2中本件審決指摘の<14>a及びbの点について

本件発明の特許請求の範囲の記載に関し、「a リングを円筒部で挟持した後、いつ後型を開くのか」記載されていないとの本件審決の指摘について、原告は、特許請求の範囲1中の「半部の露出・保持せるリングを挟持した後、円筒部のリング後型からの離隔」や「リング後型およびリング前下型の再閉塞」なる文言記載を引用してリング挟持体がリングを挟持した後にリング後型を開いて離隔することは明らかである旨主張するが、原告の引用する右の各記載は、それぞれの文言どおりの技術的意義を示したものにすぎず、それらの記載は、本件審決が指摘する、いつリング後型(7)、(7´)を開くかというそれらの他の部材との関係における一連の動きにおいての具体的な開放時期を明示した記載と解することはできない。なお、この点に関し、原告は、発明の詳細な説明中の記載を引用するが、それにリング後型が開く時期が記載されているとしても、特許請求の範囲に発明の構成に必要な事項の記載を欠く以上、その記載の不備は免れ得ないものというべきである。また、「b リングを円筒部によりリング前下型に係合する点が明瞭でない。また、係合がはずれるのは何で行うのか」との本件審決の指摘に対しても、原告は、特許請求の範囲1の記載を引用して、特許請求の範囲1の記載においても、右指摘に係る事項は明らかであると主張するが、原告の引用する特許請求の範囲中の各記載によつても、重要な構成部分をなすリングを前下型に係合させるための構成及び更にその係合からリングをはずすための構成(例えば、前掲甲第六号証の一ないし四の明細書の発明の詳細な説明の項によると、リング挟持体(H)の下限位置まで下降が必要であることが認められるところ、この点の記載は、原告引用の特許請求の範囲には欠落し、円筒部のリング後型側への再移行のみの記載では足りない。)が特許請求の範囲に記載されているものと認めることはできない。なお、原告は明細書の発明の詳細な説明の項中の記載を引用するが、この点の記載が特許請求の範囲の記載の不備を補い得ないことは前説示のとおりである。そうすると、本件特許は、前示特許請求の範囲1及び2の文言に照らしその各発明につき、構成に欠くことができない事項というべきリング後型を開く時期、リングをリング前下型に係合する構成及びその係合からリングをはずす構成についての記載を欠くものであつて、法第三六条第四項所定の要件を満たしていないというべきである。

以上のとおりであつてみれば、その余の原告主張の点につき判断を加えるまでもなく、本件発明の明細書が法第三六条第三項及び第四項に規定する要件を満たしていないことを理由に本件特許を無効とした本件審決の認定判断は正当というべきである。

(結語)

三 よつて、本件審決を違法としてその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、棄却することとする。

〔編註その一〕 本件における特許請求の範囲の記載は左のとおりである。

1 左右方向のみに摺接かつ上下に亘り相互に密嵌せる夫々一対の対向せるリング後型、リング前上型およびリング前下型の閉塞で直立状に連通される環状溝への溶融地金の注入・凝固で直立状のリングを形成し、ついで前記リング前上型およびリング前下型の開放後、リング挟持体における円筒部のリング後型側への移行でリング後型より半部の露出・保持せるリングを挟持した後、円筒部のリング後型からの離隔および回転で前記リングを水平に転換後、リング後型およびリング前下型の再閉塞後、円筒部のリング後型側への再移行についでリング前上型の閉塞により直立状に形成された環状溝への溶融地金の注入・凝固による後続のリングを前記水平状に変換されたリングに直交・連結させるようにしたことを特徴とするリング自動連鎖方法。

2 左右方向のみに摺接可能な一対のリング後型、これらリング後型の夫々に上下に重合かつ対向せる一対のリング前上型およびリング係止用切欠部付のリング前下型の接離ならびにリング挟持体の回転・昇降とリング後型への進退とでリングを相互に直交・連結させるようにしたものにおいて、リング挟持体における円筒部内に十字状の空間部を存し設定位置を夫々調節可能としたリング挟持用の爪片を、リング挟持に際し自動的に拡開可能に対向させる一方、円筒部外周縁に設けた切欠部付きの規制片を、昇降可能な嵌合体に摺動可能に載置され、かつ前記切欠部に接離自在に臨ませたストツパーを中間に介在させた一対の直立片の間に挟持させると共に、円筒部外周縁の一部に設けた歯車を円筒部の長手方向に対し直交・進退するラツクに噛合させ、このラツクの進退による歯車回転を介し円筒部の九〇度回転でリングを連続的に連結可能としたことを特徴とするリング自動連鎖装置。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面

<省略>

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